地域と、学生どうしとつながって、持続可能な社会を考えるアクションへ! 羽ばたく信大生サークル


持続可能な社会を担う“人”を育てる=《ESD》を実践するサークル

構内の木々が秋色に染まり、たくさんの学生がにぎやかに行き交う昼休み。
こんな当たり前のようなキャンパスの風景が戻ったのは、まだほんの1カ月ほど前だったと聞き、新1年生にとっては待ち望んだ生活にやっと安心できたのでは…と思いを巡らさずにいられません。

松本市に本部を置き、8つの学部と大学院を擁する国立の信州大学。
県内各地にある計5つのキャンパスのうち、ここ松本キャンパスでは全学部の1年生が学ぶことになっていて、学生生活のスタートを切る地でもあります。

入学したばかりの1年生が2021年春に立ち上げた、大学公認サークル「雷鳥サークル」。長野県全体を活動エリアにと考え、県の鳥である雷鳥の名を付けました。

掲げる活動目標は“地域×信大×ESD”。

ESDはEducation for Sustainable Developmentの略で「持続可能な開発のための教育」と訳されます。持続可能な社会のつくり手を育む学習・教育活動で、SDGs17の目標すべての“実現の鍵”であると、国連によっても提唱されています。
今、教育現場でも、子どもたちがSDGsを学ぶ機会は積極的に設けられています。幼稚園から高校までの学習指導要領にも、持続可能な社会の構築の観点が盛り込まれ、ESDの考え方に沿った教育を進めるよう求めています。

そんなESDをコンセプトワードに、できたばかりながら多方面で活動している様子を知り、SNSなどで発信もし続ける皆さんにぜひ話を聞きたくなり、キャンパスを訪ねました。

※ESDの歩み:1992年の国連地球サミットでの「リオ宣言」「アジェンダ21」の中に、持続可能な開発の実現に向けて教育が果たす役割についても記された。その後、2002年のヨハネスブルクサミットで、持続可能な開発における人材育成の重要性が提唱され、これを受けて2005~2014年を「国連ESDの10年」とし、ユネスコが主導することに決定。現在は、国際的な実施枠組み“ESD for 2030”のもと、SDGsの17すべての目標実現へ向けて、教育の役割を強調し、大きな変革やリーダーシップが重点に挙げられている。

地域の中へ、自分から飛び込む! 何かをしたい1年生が集まってスタート

取材は11月初旬。
講義室に集まってくれたのは、サークル代表の海沼 怜(れん)さん(繊維学部)、発起メンバーの一人で会計長の黒滝英基さん(繊維学部)、降籏知哉さん(繊維学部)。また、他のメンバー数名も顔を出してくれました。
メンバーは18名(11月現在)。全員1年生で、学部もさまざまです。

海沼さんは、地元である諏訪地域の高校生時代から、フリーペーパーの発行や県議会議員とのワークショップなど、社会活動に関わってきました。
信大へ合格が決まった時から、サークル設立に向けて動き出したといいます。

「ツイッターでも呼びかけたんですが、とにかく私からどんどん声をかけてメンバーを集めました。ちょっとストーカー体質なところがあって(笑)、でも、話しかけたらだいたいその返しの一言でわかるんですよ。『この人、すごく仲良くやっていけそう』と思ったら、98%の確率で読みは当たってましたね」

サークル代表の海沼 怜(れん)さん(繊維学部)

「僕は入学前のオリエンテーションで自分から海沼に話しかけたんです。何か面白そうなことやっているなと思って」(降籏さん)

「僕は3月くらいから関わりました。ツイッターで知って、海沼と知り合いになって、話を聞こうかなと」(黒滝さん)

「県外出身なので、長野県の魅力や課題を知りたい」(書記・新垣七海さん/教育学部)というきっかけで加わったメンバーもいます。

「信大は、地域貢献度ランキングで1位を取るなど、地域社会との関わりが強い大学。そんな信大での学びを生かしながら活動して、多くの人にESDを知ってもらいたい。SDGsについても私たち大学生はまだ知識が少なく、主体的にSDGsに取り組むための経験も足りないと感じています。そのために、地域とどんどんつながり、積極的に話す機会をつくろうと考えて、このサークルを立ち上げました」(海沼さん)

「地域を変えることができなければ世界を変えることはできない」と言う海沼さん。
黒滝さんも「これまでは実際に地域を訪れて魅力を知ろうとすることがなかった。でも今後は自分から関わっていこうと思っています」と話します。
まずは身近な場所からの実践をと、サークル全体で取り組んでいます。

コロナ禍の学外活動制限。それでも、今できる範囲で今できることを

とは言うものの、コロナ禍のさなかのサークル設立。
大学公認のサークルとして、感染を広げる可能性のある活動は行わないように制限されています。
長野県内でも感染が急増した今年の夏は、ほとんど動くことができなかったといいます。
そんな中でもいくつかの活動を進めてきました。

サークル初の対外活動となったのは、北安曇郡池田町で行われた「テイクアウトマルシェ」。
弁当販売のスタッフとしてボランティアで参加したメンバーは「池田町の人たちの温かさを知ることができた」といいます。

テイクアウトマルシェに参加

松本市役所地域づくり課への訪問では、課に新設されたユースサポートの担当者と懇談。サークルの目的・目標についてプレゼンテーションを行い、地域の市民団体や子ども食堂について話を聞きました。
参加メンバーからは「初のプレゼンで緊張した。サークルの改善点も見つけることができた。これから市と連携して活動ができたら」「松本市をよくしようと多くの人が活動していることを知り、自分の気持ちも強まった」などの感想が出ました。

そして、県内で飲食チェーン店を運営する諏訪市の株式会社テンホウ・フーズを訪れ、大石壯太郎社長と面談。
ここでもサークルのプレゼンを行い、大石社長からは、活動へのアドバイスから諏訪地域の信仰まで、多彩な話を聞けたといいます。

「経営トップの立場としての考え方など、実際にお話しして世間の見方を学べました」(SNS担当・安藤航輝さん/工学部)

大石社長さんと記念撮影

「大石社長は、高校生の時の活動で出資をいただくなど、以前から支援してくださっています。社長さんなのに気さくに話をしてくれて、すごい方だなと。私の背中を押してくれた存在で、尊敬しているんです」(海沼さん)

ほかにも、諏訪市議会議員の横山真さんと諏訪湖を訪れたり、子育て支援に関する県議会議員とのZoom意見交換会、県庁訪問など、県にまでつながりを持ち始めています。

長野県庁前にて

つながりをつくり、多くの経験を積みたい。2つの企画実現に向けて進む

設立1年目である今年度は、「つなぐ」を目標に活動しています。
まずはサークルの仲間どうしをつなぐこと。そしてサークルと地域の人々をつなぐことを目指しています。

「今の悩みとしては、松本キャンパス以外に関わりのある人がいないこと。各キャンパスが拠点になるために人脈を広げたいんですが、コロナもあって思うようにいっていないですね」(海沼さん)

2年次からは、メンバーがそれぞれのキャンパスへと散ることになり、今後の活動をどのように進めていくかは「みんなで話し合って決めていきます」とのこと。

「僕たちを含め、上田キャンパスに行く繊維学部の学生が今のところ多くて、松本に残る人が少ないんです。新メンバーをできるだけ増やして、それぞれで活動を広げ、雷鳥サークルをもっと大きくしたいですね」(黒滝さん)

発起メンバーの一人で会計長の黒滝英基さん(繊維学部)

「環境問題の解決」(書記・阿部良祐さん/繊維学部)、「農薬や食糧不足など食関係」(荒井創太さん/教育学部)、「再生可能エネルギー」(森島義貴さん/工学部)と、それぞれに興味・関心のある分野を持っているメンバーの皆さん。

「だけど、サークルに入るきっかけはSDGsとかじゃなくて全然いいんです。自分なりの目的で入ったメンバーが、いろいろなことをやってみてから『あ、これもSDGsだよね』となったらいいなと考えています」(海沼さん)

大学の対面授業なども再開した10月以降、サークル活動も再び徐々に動きつつある今、2つの企画の具体化に向けて進んでいるそうです。

一つはテンホウとのコラボレーション。
大石社長との間で「共同開発を」という話が立ち上がり、テンホウ側への提案に向けてアイデアを練っている段階だといいます。
もう一つは、芸術祭の開催。信大生と社会人との合同発表会を開く構想です。
実は夏休み前に具体的に動き始めたものの、コロナの急拡大により、いったん計画は破棄に。再び地道に準備を進めています。

「信大生自身も社会人と関わりたいと考えていて、芸術活動をしている社会人と学生とで、地域の方向けに発表するイベントを開きたいんです。それと、信大生は結構絵を描いている人が多いんですね。そういう人たちに協力してもらって、環境やジェンダー、まちを住みよくなどの目標も含めて、広い視野でSDGsの考え方を捉えてもらうきっかけになるような絵画展を考えています」(降籏さん)

降籏知哉さん(繊維学部)

一つ一つの歩みを大切に。ゆっくりでも、お互いに成長しながら進みたい

海沼さんは「SDGsを達成するために、大学生も動かなければいけない」と話します。
筆者も全く同じ思いです。

海沼 怜(れん)さん(繊維学部)

今年初め、高校生たちの力で一緒に制作を成し遂げた経験から実感したのは、この先の30年、40年を変えていき、つくり上げるのは、高校生や大学生…若い世代の皆さんに違いないということ。
これからの社会の主役になる世代が、もっと自由に、もっと楽しんで、地域に、世界に踏み出していけるように、私たち大人がきちんとチャンスを用意してあげなければいけないと、心から思います。

「今はまず企画2つの達成が目の前の課題。そしてサークルがこれから円滑に進むために、いろいろな知識を得るところから始めたいです。一気にじゃなく、進みが遅くても一人一人分かち合うのが大切だと思うので、成長はゆっくりでも仲睦まじくやっていきたい。サークル長の私一人が引っ張るというより、メンバーがお互いに引っ張り合っていくという姿が理想です」(海沼さん)

松本で生まれた雷鳥のひなが、来年からそれぞれの場所でそれぞれに羽ばたいてくれることを大いに期待しつつ、これからも応援し続けていくことを約束します!

■信州大学公認 雷鳥サークル

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