2020年05月01日 暮らし・文化・アート
100%もみ殻。お米の国のエコ燃料「モミガライト」から広がる輪で、人・環境・未来を結びつける
大手電機メーカーを辞めて一念発起。エコ燃料の製造販売で起業
ハーロム アルマ : 岡 賢昭さん
長野県松本市に拠点を置く「ハーロム アルマ」は、2015年2月に設立。
ウェブサイトでうたう事業内容は、「籾殻を原料とした固形燃料の製造及び販売/アウトドア用鍋の輸入及び販売/知育玩具の輸入及び販売」となっています。
固形燃料とアウトドア用鍋はどうにかつながりそうな気がするものの、知育玩具とは?
ちょっと耳慣れない横文字の会社名とも相まって、なんだか不思議な第一印象です。
代表の岡賢昭さんは、1972年、東京生まれ。
大学で環境情報学を学んだ後、ソニーに入社しました。
7年間の海外赴任から戻ると、安曇野市のパソコン工場に配属となりましたが、やがてその工場の存続問題が起こり、進退について決断を迫られることになりました。
悩みに悩んだ岡さんが選んだのは、退社・起業の道。
2014年の夏にソニーを辞め、米のもみ殻から作る「モミガライト」という固形燃料の製造・販売を中心とした事業で独立しました。
アウトドア用の大型鍋と知育玩具は、5年間暮らしたスローライフの国・ハンガリーで出会った、岡さん一押しの商品。ぜひ日本に紹介したいと、直輸入して販売しています。
では、メイン事業で製造販売する「モミガライト」とは? お話を聞きました。
天然材料「もみ殻」を、化石資源に代わる環境に優しい燃料として有効活用
今日も元気に機械が稼働する倉庫。現在、岡さんが間借りしている安曇野の米農家さんのもみ殻の集積庫です。精米時に大量に出るもみ殻の一部を直接利用させてもらいつつ、周辺から集めたもみ殻でモミガライトを製造しています。
機械に投入されたもみ殻は、およそ30秒ほどで、熱々の焦げ目が特徴的な、九角形の棒状になってゆっくりと押し出されてきます。これがモミガライト。
固めるための接着剤などは一切加えず、100%もみ殻で作る固形燃料です。とにかく固いもみ殻をすりつぶして、280〜300℃の高温で加熱、加圧成形してできあがります。
(1) 木の薪より密度が高いので、長時間安定して燃える(ただし直接着火することが少々難しい)
(2) 含水率が低く、よく乾燥しているので、薪ストーブや煙突にタールがつきにくくメンテナンスが楽になる
(3) 湿気に強く、直接雨に当たらなければ5年以上ほとんど品質が変わらず、使いたい時にすぐ使える
といった点が特長ですが、「なにより、環境に優しいところ。それに、お米の国の循環社会を支えてきたのは稲作文化なんですよね」と岡さん。
「原料のもみ殻は、稲作に伴って必ず出ます。毎年供給される自然材料で、成長サイクルが数十年単位という木の薪より環境負荷が小さい。モミガライトは、燃やしても窒素や硫黄酸化物を発生しませんし、燃えかすは砕いて土壌改良材にもなります。実はもみ殻って再利用が難しいんですが、モミガライトにすれば効率のいい燃料として付加価値がつきます。そして、地元のお米のもみ殻から作ったモミガライトを、地元の方が燃料として使えば、“エネルギーの地産地消”になります」
製造場所を借りている米農家さんも、そんな地産地消なモミガライトつながりのご縁。
お互いほぼ同じ時期にモミガライトを知って興味を持ち、その後、共通の知人を通じて製造の意欲を共有。先に事業にした岡さんに「じゃあぜひここを使って」と、製造工場として提供してくれました。
「以前の場所から移転して、春先からここで製造を始めました。田んぼに囲まれているし、もみ殻の運搬がとにかく楽ですね。今後は製造の外部委託を考えているので、農家さんの農閑期の仕事としてモミガライトを作ってもらえたらと思っています」
ハンガリーでのスローライフが原点。あこがれの薪ストーブで苦労して…
岡さんが起業を志したきっかけは、ソニー時代の海外赴任先ハンガリーで体験したスローライフでした。
ハンガリーのゆったりとした時間の流れがとても気に入り、帰国後に赴任した安曇野にも同じ空気を感じ、信州への移住を決めました。
松本市に家を建て、一目ぼれしたストーブ店が造るあこがれの薪ストーブを設置。しかしすぐに薪の調達で苦労することになりました。
そのストーブ店で教えてもらったのが、モミガライトでした。
「もみ殻でこんな素晴らしい燃料ができるんだ!と、かなり衝撃を受けたんです。これをもっと普及させたいと思うようになって」
そんな折に持ち上がった勤務先の存続問題。
子どももまだ小さく、再就職も選択肢に、半年以上悩んでの起業でした。
岡さん以上にリサイクルやエコに関心があった奥さまの理解あってこその決断でした。
「会社名のハーロム アルマは、ハンガリー語で『3つのりんご』という意味なんです。“人”と“環境”を結んで“未来”へつなげたいという思いを込めました。りんごの産地の信州から、ハンガリーの魅力も一緒に伝えたいんです」
原料集めから製造・販売・営業まで孤軍奮闘。地産地消の凍霜害対策に次の販路を見つける
当初は、ストーブの薪としての利用をメインにモミガライトを広めようとした岡さん。
当初の数年間は、原料となるもみ殻集めから、モミガライトの製造・販売、営業まで、奥さまの協力を得ながら忙しく駆け回る日々でした。
「でも、そもそも薪を買う必要がない人もいて、2〜3年やっても販売がうまく広がらなかったんです。僕自身も薪ストーブユーザーなので気持ちもわかる。違う使い方を考えなきゃと思っていた時に、JAの方から、果樹園の霜よけにどうかと提案されたんです」
もともとは、JAの米の部門の担当者がもみ殻の処分で困っていたところ、モミガライトを知り、岡さんとつながっていました。
そこで、果樹の担当者が霜よけに使える燃焼材を探していると聞いたのです。
「果樹園では凍霜害を防ぐために、あちこちで火をたいて空気を温めるんですね。長時間熱が出続けないと効果がないんです。燃焼材は海外から輸入しているそうなんですが、途中で火が消えてしまうので農家の評判が悪くて、しかも値段も高い。それで『ぜひモミガライトでやりましょう』と」
しかし課題もありました。モミガライトは直接着火が難しいこと。野ざらしでは、長時間燃焼の特長が発揮できないこと。そこで考えたのが専用燃焼器でした。
燃焼時間を計る実験を行いつつ、モミガライト用の燃焼器の開発をスタート。自宅の薪ストーブを作ってくれたストーブ店に依頼し、モミガライトにぴったり合う燃焼器を1年がかりで作り上げました(現在特許出願中)。
「もうこのストーブ屋さんは、モミガライトとの出会いもくれたし、僕の人生を変えてくれた人と言ってもいいくらい。一緒に作った燃焼器はおかげさまで好評で、これから周辺地域のJAにも広めていきたいです。やっと一つ、薪以外の活用法が見えてきたかなという感じですね」
海外経験が生かされ、新たな事業へ。マダガスカルの森林乱伐を防ぐ助けに
一方、岡さんはさらに広く、海外とのつながりも得るようになりました。
頼りになったのは、海外経験で身に付けた英語力。
「モミガライト製造機を開発した広島のメーカーに、海外からも問い合わせが来るようになって、僕でよければとメールや電話の翻訳を引き受けたんです。そのメーカーは国連の専門機関やJICAとの接点もあった関係で、製造機をマダガスカルに導入したいというドイツの会社から問い合わせが来ました」
マダガスカルで現地の農業組合をつくり、精油(エッセンシャルオイル)を製造しているメーカーでした。
現地での精油作りには大量の薪が必要です。蒸留するために水蒸気を使うからです。
マダガスカルをはじめとしたアフリカ全域では、今でも生活燃料として一般的に薪や炭が使われていて、そのために多くの木が伐採されています。
乱伐を防ぐ手立てはないかと考えたドイツの会社が、もみ殻を材料とする燃料モミガライトを見つけ出し、直接コンタクトを取ってきました。マダガスカルはアフリカ第1のコメ生産国で、大量のもみ殻が存在します。
「そのドイツの会社は環境意識が高くて、すぐに契約まで行き、現地での最終的な調印まで立ち会わせてもらいました。その時に『この精油をこれから日本で売りたいが、協力してくれる会社を紹介してほしい』と切り出されたんです。それで、紹介も何も、僕らでよければ手伝いますと、その場で即答しました」
精油のブランドを新たに創るところから始めた岡さん。
精油の輸入段取り、ブランドのコンセプト、ロゴデザイン、パッケージ、ボトリング、広報、販路確保等、試行錯誤しながらできあがったのが『MABIO(MADAGASCAR BIO ESSENTIAL OILS)』です。「売るからにはしっかり売りたい。ちゃんと基礎を学ばないと営業できない」と、夫婦でアロマテラピーの認定試験も受けました。
「完全に女性だらけの中に、男は僕1人でしたね(笑)。晴れて2人とも合格できてよかったです。全然違う世界ですが、僕の中では、もみ殻からつながったご縁。彼らはおそらく世界で唯一、もみ殻の燃料を使って精油を作っているメーカーです。環境保全も意識しているメーカーの商品を売っている誇りもある。ベースにある思いは共有できるかなと思っています」
ハンガリー、信州、そして今またマダガスカルと、岡さんが出会った人々とのつながりが、持続可能な未来へ向けてたくさんの輪を次々に広げています。