小さなご縁を大きな力に。地域の福祉を支える小規模事業者も、「組合」になれば可能性がきっと広がる


小さな福祉事業者の運営を助ける、「協同組合」の仕組み

福祉事業協同組合エンシェア 代表理事 : 宮澤優一さん

2019年3月に長野県で誕生した、福祉事業協同組合「エンシェア」。
高齢者・障害者・児童福祉などの事業者と、それらの福祉事業の助けとなる商品・サービスを提供する業者が集まる協同組合です。

エンシェアが特に目を向けているのは、“1法人で1事業所”といった、規模のごく小さな福祉事業者です。
こういった小規模事業者の経営環境は、どこも例外なく厳しい状況に置かれています。小さいために単体では実現できないことをかなえようと、エンシェアは立ち上がりました。

エンシェアの大きな柱は3つ。

食品や日用品、介護・衛生用品などの「共同購買」は、購入したい組合員と、生産・販売者との間にエンシェアが入り、安くまとめ買いすることで経費を削減したり、日々の買い物や発注の手間を省きます。

独自の就職情報サイトなどを通じて、福祉人材の効率的な採用を実現する「人材確保支援」

エンシェアが窓口となって、提携する行政書士、経営・金融などの専門家からの支援を、実質負担金なしで受けられる「経営支援」


小規模事業者の課題を解決するこの3事業で、経営基盤を支え、地域の福祉サービスが充実することを目指しています。

異色の経歴を持つ法の専門家が、福祉の世界に根を張ることを決意

福祉事業協同組合エンシェアの代表理事を務める宮澤優一さん。
本業は、相続や遺言、成年後見などに携わる特定行政書士。長野県松本市に個人事務所も開いています。
お話を伺ってみると、なかなかに意外な経歴でした。

転勤族だった父親の赴任先であり、母方の実家がある松本で生まれた宮澤さんは、大学の法学部で法律を学びました。
卒業後、社会人として働きながら通信教育で学び、なんと警察官に転身。

「主に生活安全課の刑事として、10年ほど勤めました。生活安全課は、ストーカーから不法投棄、高齢者の虐待など、幅広く扱う部署なんです。県内の社会福祉法人に就職していた県警のOBから『危機管理の仕事をしないか』と誘われたのが、福祉に足を踏み入れるきっかけでした」

もともと福祉に興味はあった宮澤さんは、その福祉法人に転職。法務に関する業務を担当しました。
独立志向もあったため、福祉法人での仕事をしながら試験勉強をこなし、行政書士の国家資格を取得。2014年に登録して事務所を構えました。
現在は、福祉法人で法務関係を担当しながら、特定行政書士(宮澤優一事務所)としても活動しています。

「福祉の世界にどっぷりつかるうちに、面白さを知りました。ここに根っこを置いて働きたいと思ったのが、行政書士で開業するモチベーションになりましたね」

外国から人手を集めるより前に、つくるべき仕組みがある

エンシェア立ち上げの足掛かりになったのは、介護現場に外国の人材が必要となる状況について勉強し始めたことでした。

「外国人を福祉の技能実習生として日本に招くには、協同組合が必要なんです。知識しかなかったので調べてみたら、外国人を来させる建前としての組合は存在しますが、同じ事業体が力を合わせて、ちゃんと機能している組合というものが、介護・福祉系では日本のどこにもないというのを知って」

世の中で必要とされ、地域で頼りにされている数多くの小規模事業者ですが、小さいゆえに経済的な体力が足らず、行政への働きかけにも手が回らないことが問題だと宮澤さんは言います。

「小さい力を集めて大きい体をつくって、福祉の仕事でもう少し画期的なものをやっていこうというのが、この組合を誕生させた一番の動機。きっかけは人材という課題でしたが、それより前にやるべきことがあると気付き、現場で必要な支援が実際にできる仕組みづくりに目的が変わりました」

みんなでWin-Win-Win。誰も損をしない、無理をしないシステム

エンシェアの収入源となるのは、ベースに据えている共同購買事業です。

「小さい事業所では、職員が近所のスーパーへ行って、現金でそのつど払ったりしている。それだと、福祉に特化した食材も手に入りにくいし、精算もいちいち大変なんです。ただでさえ手が足りないし忙しいのに」

そこで、福祉関連の商材を扱うネットショップのようなシステムを作り、組合員向けにサービスを提供。エンシェアに商品を注文すると、エンシェアが商品を一括で購入します。購入したものは各福祉事業者に配送も行います。
福祉事業者は、手間が省ける上に、安心安全で役に立つ福祉向け商材を安く買えることになります。
福祉商材を扱う業者にとっては、今まで取引対象にしづらかった小規模事業者を、新たな顧客にできます。
エンシェアは手数料を上乗せすることで収入となります。
3者がWin-Win-Winとなる仕組みです。

「我々が得た収益は、人材確保支援、経営支援の事業に回していきます。いい人材を効率的に集めたり、事務手続きを助けてもらったり、専門家の経営アドバイスを受けたりというのを、小さい事業者でも組合費の負担だけでできるようにすれば、そこで浮いた経費や労力、生まれた団結力で、いずれは福祉全体の底上げにつながると思うんです」

育った人材がちゃんと残れるような未来図を描き、仲間とともに船出

この記事の取材当時、新型コロナ感染拡大を防止する自粛要請により、エンシェアでは予定していた加入説明会などがまったく開けずにいる状況でした。

「今回の問題で福祉の現場も追い込まれています。こういう時こそ、社会弱者を支える福祉事業者どうしをつないで、みんなで協力することが大切なんですよね」

活動が足踏みする中、できることから始めていこうとしている宮澤さんですが、一般の社会と福祉の社会の間には垣根を感じる、と言います。

「福祉ってすごくかっこいい仕事なのに、なにか、横によけられている感じ。共生社会と言われている割に、福祉で働く人もサービスを受ける人も、違う世界の人なんじゃないかと」

福祉の仕事に就いて、せっかく技術を身に付け育った人材が、別の業界に出ていってしまう問題があります。
心からやりがいを感じながら喜んで働いているはずなのに、さまざまな理由で離れてしまう貴重なマンパワー。
組合の事業によって課題を解決できれば、こういった人たちが残れるようにもなるはずだと希望を持っています。

「まずは地元から始めて、いずれは長野県全体に広げたい。まだ体は小さいですが、賛同してくださる有志のメンバー、こういう仕組みならと協力を申し出てくれた業者さんと一緒に、少しずつ輪を広げていきたいです。一般も福祉業界も関係なくなって、地域一帯が盛り上がる助けに我々がなれればいいですよね」

小さなご縁をみんなでシェアして、つないで、大きなご縁にしてハッピーになろう、というのが「エンシェア」という名前の由来。
地域の福祉に新しい風を起こす仕組みを動かし始めた宮澤さんは、これからも、たくさんのご縁をあちらこちらでつないでいくはずです。

福祉事業協同組合エンシュア
長野県松本市大字笹賀5652-40 大久保事業所2階
TEL.0263-31-0285
https://www.en-share.jp

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