エネルギーもお金も必要以上に使わないで暮らせる社会にこそ、豊かさがある


年間70万人が訪れ、視察も次々。こだわりの詰まった直売所

産直市場グリーンファーム:小林啓治さん

眺めのいい幹線道路沿いに建つ平屋の建物。
長野県の南部、伊那市にある農産物直売所「産直市場グリーンファーム」です。
先代社長の小林史麿さんが1994年(平成6年)4月に創業。伊那地域で知らない人はいないほど、地元に根ざした老舗の直売所です。

始まりは、規格外の野菜や果物を“一盛り100円”という感じで売る、家族経営のごく小さな店でした。
徐々に規模が大きくなり、現在は登録生産者2,000人、従業員55名を抱え、県内外や海外からの観光客も含め年間70万人もが訪れる、全国でも有数の産直に成長しました。
成長の秘訣を探ろうと、同業者や小売業者の視察も相次いでいます。

「農協には出せない野菜をお金にできないか」という農家の悩みに応える農産物販売のほか、野菜の苗・種、鉢花、手作り総菜・みそ、地域の特産品、日用雑貨など、扱う品目は実にさまざまです。
店の入り口がわからないくらい、建物の周りに積み上げられたガラクタではなく、家具や骨董品、古道具なども、すべて売り物として値札がついています。

そして隣の敷地には、ヤギやウサギがのんびり過ごす小屋。子どもたちが近づいてえさをあげています。
店内に入るとようやく、直売所らしく野菜や果物が並びます。かと思いきや、奥へ進むと、中古レコードや、昭和感漂う家電、インテリア…。

見栄えもジャンルもまるで関係なく、ありとあらゆる雑多なものがひしめいて、不思議な面白さ、楽しさがあるのが、一風変わった直売所「グリーンファーム」最大の特色です。

高齢者が頑張れる農業を支えることが、自分なりの“福祉”

小林啓治(こばやしけいじ)社長、48歳。ここ伊那市の出身です。
大学を出たのはバブルの後。就職も厳しい時代でした。
大学では福祉を学んだ小林さんですが、福祉に関わる資格は何も取りませんでした。

「学ぶうちに、自ら社会に尽くすより、社会を変えることで貢献したい思いが強くなった。だからおやじが始めたばかりだった産直事業は、ある意味“福祉”だと思って、家に戻って手伝い始めたんです。だって、農業が元気になれば、高齢者の生きがい、居場所がつくれて、いきいきと暮らせる。寝込んでからの福祉か、寝込まないための福祉かということですよ」

グリーンファームに登録している農産品生産者は、小規模な農家や、農作をする高齢者世帯がほとんど。
持ち込んだ農作物が売れると、グリーンファームの手数料を引いた分が、生産者の収入になります。

「余った野菜を喜んで持ってきて、お金もらって。80歳のおばあちゃんが『私は税金もらってる側じゃない。ちゃんと納めてるのよ』って言う。こんな立派な生き方ないですよ。税金を納めて、健康に人生を終われる、そういう場所をもっとつくらなきゃ。僕の“福祉”はこういうやり方です」

必要とする人と必要じゃない人のマッチングが、まっとうなビジネスを生む

「せっかく立派な住宅でも、古い家だと7割くらいの部屋が使われてない。それくらい世の中には無駄があると思います。必要とされているのに、マッチングする人がいないので、うまくいってないことが山ほどある。自分に合ったサイズの暮らしや社会にする動きが大事だし、そこにはビジネスチャンスもありますからね」

骨董品やリユース品の回収や展示販売は、そんな思いから生まれた事業です。
地元の使わなくなった中古品は、持ち込みだけでなく、解体業者からも処分の相談や依頼が来ます。
不要品があると聞けば小林さん自ら出向き、使える物なら、開封済みのオムツでも、ボールペン1本でも持って帰るという徹底ぶり。

「ものに命があるとすれば、捨てない方がいい。服だって、日本では年に10億枚くらい捨てられてるんです。わざわざ新しく作って、そのためにエネルギーを費やしている。おかしな世界ですよ。服でも何でも全部、今あるものを大事に使えば、たぶん僕たちは何も買わずに10年くらい暮らせる。いらない人から必要な人へ回すことが使命だと思っているので、格好つけずに何でも引き取ってどんどん安く売って、使ってもらいたいんです」

一見ガラクタのように見える、使い古された道具たち。
欲しい人に届くようにという、規格外野菜の直売と同じ思いを込めて、店頭に並べています。

「何だかわからなくてごちゃごちゃで、田舎丸出しでしょう。都会の人に尻尾振らずに、だけど楽しませたいんです。長野まで来て、都会と同じもの置いてあるんじゃ意味がない。うちはお土産品も扱ってませんからね。日本の田舎の古い生活用品は普通のリサイクルショップにはないから、都会の人とか外国人もうれしそうに買っていきますよ」

損得は考えず、「生き物からの学び」「生活が安定する雇用」も大切に

「ヤギやらウサギやらは、おやじが動物好きなので、初めのころから飼っています。経費もかかるし、たまに批判も来るけど、子どもたちが喜ぶので続けています。今の子どもはタダで遊べる場所もないし、本物の動物との触れ合い方を教える意味でも必要だと思って」

生きている動物とぬいぐるみとは違うことを子どもたちに理解してもらうため、動物たちにも頑張ってもらっていると言う小林さん。

「ヤギが噛んだ、ウサギにひっかかれたというトラブルは、多少はしかたがないと思っています。『ひっかかれたのは、抱き方がよくなかったんだね。今度は上手にだっこしようね』と教えてあげる方が大切ですよね」

収益より先にやることがあるという思いで貫いているのは、従業員に対しても同じ。
ワークシェアリングを進めて、もっと雇用を増やしたいと考えています。

「地域経済のために、障がいのある人がきちんと働ける場所にしたいですね。今、障がい者手帳を持っている人が8名働いています。法定雇用2.2%なんて、共生社会に向けた取り組みとしてはナンセンス。10%でも20%でも増やさなくてはと思います」

週1〜2回の学生アルバイト以外は、勤務時間の長短にかかわらず、原則すべて正社員として待遇しているのは、従業員の生活を成り立たせるため。
同じ職場で働く人をまず元気にしよう。そんな小林さんの心意気を感じます。

身の丈に合った経済、農業が基本の社会なら、揺るがない

“使命”という言葉を使って、「誰かがやらなきゃ」を実際に行動している小林さん。
これからについてはどう考えているのでしょうか。

「今の会社、このビジネスはある程度完成されているので、もっと地域を面白くする仕組みづくりが、人生後半戦の仕事かな。伊那のまちを僕らが勝手に面白くしちゃうみたいにしたいなと」

周りの空気まで引っ張るような、はっきりした考えと強い個性の持ち主。しかし意外にもと言うか、想像どおりと言うか、「仲間? いないですよ」とあっさり。

「部下は別として、友達や仲間で群れると、自分の感度が悪くなる。人に歩調を合わせる暇もないですしね。自分のやりたいことを議論する間もなく、どんどん形にしていく人間なので。同じ話題で話せる人がいないんですよ。僕は変わりすぎてるから」

遠くのどこかで起きた混乱が、またたく間に世界中に広がり、あらゆる人々が巻き込まれる事態をすでに経験している、現代のグローバル社会。
小林さんはそこにきっぱり異を唱えます。

「風呂敷を広げすぎた経済だから回らなくなった。身の丈に合った生活なら何も困らないんです。農業やって、仕事にも行って、早く帰って、夜は早く寝て、朝早く起きてっていうのをみんなができれば、全然それでいい。食糧自給率を上げようと言いながら、日本の食を支える農業従事者の数は圧倒的に少ないし、かなりの高齢化率です。兼業でも、農業をやる人がもっと増えれば、エネルギーもお金も今より使わないで楽に暮らせると思います」

全国から注目されるまでに事業を拡大しながらも、小林さんが常に見ているのはあくまでも地元。
地元の“人”と“もの”が、いきいきと動き、循環していくようにという思いを持ちながら、まっすぐ進み続けています。

観葉植物やガーデニング植物も豊富に揃う
生活雑貨も揃います

株式会社 産直市場グリーンファーム
長野県伊那市ますみヶ丘351-7
https://green-farm.asia

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