2023年11月01日 暮らし・文化・アート
コワーキングスペースとして社会や環境にできることって何? 富士見町で動き出している「GREEN COMMUNITY」から目が離せない
八ヶ岳の麓、自然豊かな高原の森の中に「富士見 森のオフィス」があります。紅葉が進む10月下旬、本通信にも以前登場いただいた、真空管ヒートパイプ式・太陽熱温水器SOLAヒーターの藤澤社長と一緒に取材に伺いました。2022年に森のオフィスの宿泊棟にSOLAヒーターを寄贈し設置したご縁での訪問です。
スタッフの松田裕多さんと中西星羅さんから、SOLAヒーターの使い心地などをお聞きするといった取材でしたが、途中からは「GREEN COMMUNITY」の話が中心に。地域や企業を巻き込む徹底したサステナブルな取り組みがとても素敵なので紹介したいと思います。
◎富士見 森のオフィスとは
2015年12月。長野県諏訪郡富士見町にオープンした「富士見 森のオフィス」(委託運営:Route Design合同会社 )は、個室型オフィス、コワーキングスペース、会議室、食堂&キッチン、宿泊棟、キャンプサイトを備えた複合施設です。
森のオフィスのスタッフは、ほとんどが本業を持ちながら、本業のスキルも活かしながら森のオフィスで活躍しています。
◎松田裕多さん
2016年に長野県富士見町に移住し、地域おこし協力隊に着任。3年間の任期満了後、デザイン会社「マツダショウジデザイン合同会社」を設立し、デザイナーとして活動しながら「富士見 森のオフィス」のクリエイティブディレクターを兼務している。
◎中西星羅さん
石川県出身、幼い頃から、地元の市民劇団でミュージカルに触れる。20歳で単身渡米。現在、フリーの舞台俳優。東京在住時代にゴミ削減に興味をもつ。2021年に縁あって富士見に移住。あるとき「森のオフィスの朝活でラジオ体操やってよ」から始り、現在は俳優業の傍ら、スタッフとして大奮闘の日々。
2020年、「GREEN COMMUNITY」スタート
富士見 森のオフィスでは、2020年より、地域のさまざまな人や活動との関わりを深めながら、コワーキングスペースから自然環境に対して責任ある意識と行動を広めるプロジェクト「GREEN COMMUNITY」を推進しています。オフィス運営における環境負荷を改善する取り組みや、同オフィス会員・地域の事業者への啓発活動をはじめ、他のコワーキングスペースに対するサステナブル運営支援やサステナビリティ推進企業との連携を積極的に進めています。
コワーキングスペースの会員数はのべ1,500人位で、半数はワンデイ使用の方。常時使用の方は約40~50人くらいだそうで、コワーキング以外に入居されている7社も含めると、多くの方がここを利用しています。
松田さん「僕らが実践しているサステナビリティの取り組みを体験した皆さんが、企業とか家庭に帰ったときに、ここでの取り組みや体験を実践してくれたらもっといいな。という思いもあって「GREEN COMMUNITY」の活動が、コロナ禍の2020年に本格的に始まりました。もともと八ヶ岳という土地が、比較的エコ感度の高い方がたくさん移住されてくる場所。僕らも活動をしやすいですし、広げていきやすいと感じています」
中西さん「縁あって2021年から、森のオフィスで働き始め、GREEN COMMUNITYを知って共感。すぐ私もやりたい。となりました。この夏は、タワシ用のヘチマづくりに力を入れていました」
「先日、富士見町駅前商店街での『富士見 縄文ハロウィンのホコ天祭り』にGREEN COMMUNITYとして初参加。リサイクル資源分別ステーションを会場内に置かせていただきました。分別ゴミ捨てを体験では、子どもたちが多く参加してくれて、汚れたプラはヘチマで洗って分別、食べ残し生ゴミは土持って行ってコンポストにと大活躍。最初の地域での活動は大成功だったと思います」
オフィス内では、ゴミの分別については、結構徹底してきびしく行っているそうです。
「プラちゃんと洗ってよ!」とつい言ってしまうと、中西さん。
リサイクルの前提条件は単一素材で汚れは取り除く、また分別することでゴミの価値が可視化できることが重要です。またサステナビリティやエコ活動にとって、この徹底した取り組みが大切だと、多くの方がおっしゃいます。まずは徹底的にやってみることで、その大切さや目的が自分事化して、活動の普及に貢献するといわれます。がんばれ中西さんです。
コワーキングスペースとして、日本で初めてゼロ・ウェイスト認証を取得
ペットボトルの削減等から始まったGREEN COMMUNITY推進活動は、現在広がりをみせ、消耗品のバルク販売や量り売り、エコ商品・地域プロダクトの使用推進など多岐に及びます。
中でも、2021年に一般社団法人ゼロ・ ウェイスト・ジャパンと共に、「オフィス」を一人ひとりの意識転換・行動変容の場にすることを目的に、コワーキングスペースやシェアオフィス向けのゼロ・ウェイスト認証制度を策定。日本で初めてゼロ・ウェイスト認証を取得したコワーキングスペースとなりました。
オフィス運営における廃棄物の削減をはじめ、資源をアップサイクルしオフィス内の備品として再活用しています。
●ここで、ゼロ・ウェイストを少し紹介します
「ゼロ・ウェイスト」とは、無駄、浪費、ごみをなくすという意味。出てきた廃棄物をどう処理するかではなく、そもそもごみを生み出さないようにしようという考え方。
徳島県上勝町が、2003年に行った「ゼロ・ウェイスト宣言」が、日本におけるゼロ・ウェイストの広がりのきっかけをつくりました。上勝町では、ごみ自体を出さない社会を目指し、ごみ収集を行わず、生ごみなどはコンポストを利用し、各家庭で堆肥化。瓶や缶などのさまざまな「資源」を住民各自が『ごみステーション』に持ち寄って45 種類以上に分別。住民への定着には時間がかかりましたが、現在、リサイクル率は80%を超えています。
なぜそれを買うのか?
なぜそれを捨てるのか?
私たち消費者は問いかけられます
WHY do you produce it ?
WHY do you sell it ?
なぜそれを作るのか?
なぜそれを売るのか?
私たち生産者は問いかけられます
(上勝町HPより)
なぜそれを買うのか?
なぜそれを捨てるのか?
私たち消費者は問いかけられます
WHY do you produce it ?
WHY do you sell it ?
なぜそれを作るのか?
なぜそれを売るのか?
私たち生産者は問いかけられます
(上勝町HPより)
2017年には、ゴミ削減の方針を示し、わかりづらい・見えづらい「ゴミ削減の努力」を可視化する仕組みとして「ゼロ・ウェイスト認証」が誕生。上勝町のゼロ・ウェイスト事業を牽引してきた坂野 晶さんが代表をつとめる一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンが運営しています。
ペットボトルの削減から始まり、企業や地域に着実に広がるグリーンなコミュニティ
以前はネットで仕入れたペットボトル飲料を施設内で販売していましたが、それをやめて地域の商店街の酒屋さんから瓶の飲料を卸してもらうように。飲み終わった瓶は、酒屋さんが回収してリサイクルに回すそうです。現在、森のオフィスにはペットボトル用のゴミ箱はありません。
松田さん「ネットで仕入れていた頃よりお金も手間もかかりますが、地域のお店と連携してモノとお金を循環させていくこで、より富士見町に根差した場所になってきていると思います」
中西さん「コミュニティというプロジェクト名のように、本当の意味でグリーンなコミュニティにしたいです」
松田さん「ここでの運営業務に追われて、中での取り組みが多くなっていますが、少しでも地域に出て行って、外での活動をしたいと考えています。先日の富士見町駅前商店街でのハロウィンへの参加もその一環でした」
地域での活動だけでなく、ゼロ・ウェイストの取り組みは、企業と連携したアクションも着実に広がりを見せています。
中西さん「歯ブラシと使い捨てコンタクトの空ケースもオフィス内で積極的に回収しています。コンタクトのケースはコンタクトのアイシティさんに引き取っていただき再利用をしてもらっています。ゴミになる前に会員さんから回収して、再利用してもらえるところに届けるのがいいんじゃないかと思っています」
歯ブラシは、地元の歯科医院さんを通してライオンの回収プロジェクトを利用。アップサイクルによって植木鉢に生まれ変わって、全国の小学校に寄贈されているそうです。
松田さん「今後のGREEN COMMUNITYは、コンタクトのアイシティさんや歯科医院さんじゃないですが、外の企業や事業者さんと一緒に取り組めることを増やして、コミュニティの幅を広げていきたいです。自分たちだけでは、できないことも連携したり協力することで可能になることがたくさんあると思います。そこを目指したいです。ゼロ・ウェイスト分野だけでなく、それぞれの企業や団体が得意とする分野とどんどんつながっていきたいと思います」
ゼロ・ウェイストな社会は地域や自分たちだけの努力だけで達成できるものではありません。自治体や企業とパートナーシップを結ぶことによって、はじめてさまざまな課題解決に取り組むことができます。
■GREEN COMMUNITYの主な取り組み紹介
●ペットボトル販売の廃止
従来は、ネットで格安のペットボトル飲料をケース買いしていたが、現在は、町内の酒屋さんにビン飲料を注文し、瓶を回収してもらっている。さらにペットボトルのゴミ箱を撤去し、持ち込んだペットボトルは持ち帰るようオペレーションを徹底。
●ゴミの分別の徹底
資源の分別をしやすいようゴミ箱の導線やUXデザインを日々アップデート。これにより容器包装プラの分別の徹底がユーザーに周知され、スタッフの業務効率が向上、一般廃棄物の排出量が減ることに繋がった。
●サービス、備品、設備に関する取り組み
利用者の皆様に協力をいただき、コワーキングスペースの備品、設備は極力環境負荷の少ないものに変更、地域プロダクトへのシフトや無駄な廃棄を削減する工夫などを推進。
●回収したコピー用紙で森のオフィスパンフレット・名刺を制作
水を使わずに新たな紙を生みだすエプソンの製紙機「PaperLab」で、オフィス内で回収した使用済みコピー用紙から新たな紙を作り出し、パンフレットや名刺に使用。
●廃油回収&アップサイクルワークショップ
会員さんのご家庭やランチ提供をしている飲食事業者から廃油を回収し、地域の石鹸作家さんと一緒に石鹸を制作。オフィスの手洗い・食器洗い洗剤として使用している。また定期的なワークショップを開催し、地域の方に廃油石鹸制作のノウハウを伝える場をつくっている。
●コンポストによる生ゴミの堆肥化
神奈川・葉山に住むご夫婦が25年ほど前に生み出したコンポスト「キエーロ」を導入。「キエーロ」は、なかにぎっしり土がはいった木箱で、日光と風を通すために、透明な樹脂製の屋根が斜めにかかっているのが特徴。土中微生物の働きで生ゴミを分解する優れもの。
●アルパッケの導入
飲食事業者には、使い捨て容器の削減を働きかけるため、繰り返し使用できる弁当箱「アルパッケ」を導入してもらっている。
●インパクトの見える化と把握
森のオフィス運営においての環境負荷をより詳細に把握するため、一般社団法人アースカンパニー協力のもと、CO2排出量の可視化を実施している。
■森のオフィスで実施している「主なレスポンシブル・アクション一覧」
・ペットボトルの削減
・バルクでのフード提供、輸送時のパッケージ削減
・使い捨て食器の削減/アルパッケの導入
・資源ステーションのUXデザイン
・コンポスト・キエーロの導入
・チラシの枚数制限
・廃油回収、廃油石鹸の制作
・古紙回収し、パンフレット、名刺を制作
・Bamboo Rollの導入
・エコチャージ
・エコ燃料の使用/エコ認証洗剤の使用
・節水バルブ
・ローカルプロダクトの販売/PR
・へちま栽培、スポンジの自給に挑戦
・太陽熱温水器の導入
◎今後の目標
・太陽光パネル設置による、オフィス営業時間内を100%再生可能エネルギーで可動させる。
・サステナビリティ施策のトレーサビリティを向上させる。
会員をグリーンの渦に巻き込みつつプロジェクト推進中
松田さん「正直私たちだけの取り組みではインパクトは少ないかもしれませんが、“なぜそうするのか?”ということを会員さんに伝えること自体が、環境について考えてもらうきっかけになると考えて地道に活動をしています」
会員さんにアンケート調査を行ったところ、実際に家に帰った後のアクションに繋がった方が半数ほどいらっしゃいました。「ゴミの分別を徹底できるようになった」などの声があったそうです。
●日常的にオフィスを利用している会員様の
GREEN COMMUNITY意識調査
意識が変わった 84%
行動が変わった 47%
販売する飲料を瓶に変えたことでかかるコスト、また容器を洗う回数や洗剤使用の増加等でのコスト。そんなコスト増を仕組みで解決するために導入したのが「エコチャージ」。GREEN COMMUNITYを資金的に支える「エコチャージ」は、新規会員登録や宿泊の際に数百円を追加でいただく環境税のようなチャージで、その金額をプールし、エコ活動の資金の補助に当てているそうです。
中西さん「会員さんが、少しだけ間接的に費用を負担していただくだけで、活動の幅が広がるし、会員さんは登録するだけでエコ活動に巻き込まれている。といった感じですね」
学びの機会を提供するのもプロジェクトの大切な使命
ゼロ・ウェイスト認証を取得したオフィススペースとして、「GREEN COMMUNITY」のでの取り組みを交えた研修サービス(1泊2日の森のオフィスで学ぶ「職場をサステナブルにするためのワーケーションプログラム」)を、ゼロ・ウェイスト・ジャパンとともに提供しています。
センスよく生きる人たちがたくさんいる地域が素敵
中西さん「森の木をどんどん切って家が建ち並ぶまちはセンスがないと思います。じゃあ、何がセンス?素晴らしい自然環境を含め、自分たちの暮らす地域の何を大切にして、何を子どもたちに残せるのか、と考えられる人がセンスのいい人だと思います。そんな、センスのいい人がみんなで考え、みんなでつくっていく地域は、素敵です」
松田さん「富士見町では、若い世代の移住者議員さんが活躍し始めています。ここ、森のオフィスの立ち上げに参加された方も議員さんになっています。地域が大好きな若い世代の声が、行政に届きやすくなってきたと思います。富士見町はすごく前を向いています。いい流れだと思います」
よく見て、よく考えて、しっかり話ができる人、そんなセンスのいい人が、富士見町の好循環を生み出しつつあると感じます。
太陽熱温水器SOLAヒーターの集熱器「真空管ヒートパイプ」の高性能さに興味津々
ここでやっと、訪問目的のSOLAヒーターの話に。お二人の取材を終えて、オフィスの外の出るとSOLAの藤澤社長さんが、SOLAヒーターの集熱真空管のミニプロトタイプを持ってきて、「天気がいいので1時間くらい前に、真空管に仕込んだサツマイモが食べ頃に焼けたよ」とアルミホイールに包んだホクホクの小さな焼き芋を取り出しました。
「外はつめたいけれど中はあっチッチ!この2重構造の真空管は太陽熱オンリーの天然オーブンだよ」と藤澤さん。
「この管に入れるだけでほんとに焼けるの?」と、中西さんが恐る恐る試食。次の瞬間、ほんとに焼けてる!と大はしゃぎ。通りがかりのスタッフさんも集まってワイワイと試食&太陽熱エコ話に花が咲きました。
最後に、今日の目的でもあったSOLAヒーターの実力も感じてもらえて、とても素敵な時間が共有できましたし、松田さんや中西さん、そして他のスタッフさんのお話を聞いていると、こちらもどんどん前向きになっていく感じがします。
ふと思い出したのだのが「人生をより良く歩むために必要な3つの力」の話。
1.希望を見いだせる力
2.面白がることができる力
3.課題を見いだせる力
富士見 森のオフィスのスタッフさんたちは、この3つの力を十分に持っているんだな。と強く感じました。
そんな情熱やエネルギーをいっぱい持っているスタッフが集い、働いている富士見 森のオフィスは、地域での変革のコアスペースとしてますます成長していくんだろうと、個人的に確信しています。
そもそも自然の中には「ごみ」という概念がありません。例えば、木から落ちる葉はゴミになるのではなく、森の栄養になります。自然界のような循環社会をお手本に、マイナスを減らすだけでなく、プラスをつくりだす取り組みが大切になっていくでしょう。それが、GREEN COMMUNITYの今後のkeyとなるリジェネラティブ(環境再生)を生み出すでしょう。